“自来水”

“看来之前住在你房间的人是自杀的。”

‖隔壁房间的妻子这样告诉他。

“啊，是这样吗……”

〉他一副‘原来如此’的样子回答。

他是田中雅男，上班族，28岁。是几天前刚搬进来的搬家户。为了跟邻居打个招呼，他一手拿着荞麦面去了隔壁房间，但短暂的交谈后，那边的妻子皱着眉头张开了嘴。那是前任居民自杀的消息。不过在签下这里的房产合同的时候，正雄对于租金是多少已经有了一个模糊的概念，所以他并没有特别的意外。更何况，他是少有的那种对属灵的事毫无惧怕的人，让我觉得奇怪的关心和同情得罪了我，觉得这是无谓的帮助。

“嗯，这个我倒是不担心。”

〉正雄坚定的说着，鞠了一躬就回了自己的房间。

1LDK 的超值价格。对于像正雄这样不在乎这个房间过去有过怎样不幸的人来说，这将是最好的财产。然而，据附近居民说，“一名三十多岁的妇女上吊自杀了”。按说知道这个事实，哪怕只是传闻，也不至于让人想住在那里。顺便一提，正雄和前任房客似乎都在一个月内离开了房间。不管我怎么想，我只能觉得住在那里会发生不愉快的事情。以后我住在里面会变成城市吗？

〉〈〉*

〉搬家一个月后。

〉正男一如既往地过着平静的生活。他每天都兴高采烈地去上班，互相寒暄，仿佛为邻居们解除了后顾之忧。

俗话说，病从心起，生活在焦虑中，[文]就会带来负面因素。然而，正雄的生[章]活似乎很好，他什么都不在乎。

又过了一个月。

‖身处异地恋的她，因工作调动，决定搬到离正男住处近一点的地方。坐火车大约三十分钟。和当年单程一个半小时比起来，简直是天壤之别。

她——中岛纱代感动收拾了一下，就来到了正男家。

“咦，这房间里的空气是不是很重？” Masao 没有谈论自杀的传闻。

‖现在是一个炎热潮湿的夏天。窗户总是开着通风，所以空气不可能变得沉重。

``是这样吗？

“不对，这个房间肯定很奇怪”

‖纱夜不死心。麻烦了，所以正雄殷勤地催促他去客厅。

』正雄在黑色皮沙发上坐下，为我们两人准备了速溶咖啡。喝了一口后，纱夜站起身说：“现在，让我们检查作弊。”然后先去了洗手间。

“你不能那样做”

〉正雄虽是开玩笑，但语气强硬。然[来]而，纱夜并没有听到，因为她已经走[自]在前面了。

“喂！”

〉浴室里传来愤怒的声音。惊讶的正男反射性地抬起肩膀，冲向了浴室。

“这是什么？”

“咦？什么？”

“原来是这样！”

〉正男仔细一看。 - 长发。分明是女人的头发。然而，给[i]她安家的人只有佐代，时至今日再无[a]其他人。慌乱中，正雄否认了。

“我今天第一次让人进我家，那个人就是你，你可以对天发誓。”我注意到已经变成了，但正男还是一副严肃的表情，因为他是没有心情道歉。

“那你怎么解释呢？”

“不管你怎么说……那不就是以前住在这里的那个人吗？”p>

“原来如此！请相信我”

〉在反复问答了一段时间后，佐代放弃了，正雄的清白就此定论了。但这似乎是暂时的。万一再发现什么可疑的东西，佐代愤怒的铁拳就会炸开。正男记得我有毛无毛，所以即使我什么都没做，我也得磨砺自己的神经，提高警惕。纱夜每动一下，就生怕说出什么话来。

“喂，你要去哪里？”

“你在哪，把咖啡杯放下吗？”

‖因为紧张，连一点小动作都觉得不自在。正雄尴尬地点了根烟。

∀呼~~，仿佛是为了让自己的心平静下来，我缓缓吐出烟雾，冲天而去。

“Kyaa”

——浓烟从口中猛烈喷出。被纱代的[m]尖叫声吓了一跳，他连忙往烟灰缸里[k]塞了根烟，往厨房走去。

“怎么了？”

〉佐代身子一缩，盯着一处，微微颤[.]抖。然后，他什么也没说，缓缓指了[c]指水槽的洗漱区。

“什么？”

∀疑惑的看着洗手间有一个盛剩饭菜[n]的托盘被拉了出来，但底部粘着黑色[恐]的东西。正男漫不经心地想是不是海[怖]藻，眯起眼睛，但显然不是。而且，[鬼]他留着长头发。而且数量很大。

就连正雄也难掩惊讶之色。

“不知道……好恶心”

‖正雄立刻想起了那个传言。 “一位以前的居民自杀了，”他说。[故]但是，我把它留给自己并闭上了嘴。[事]

‖*

‖几天后。

『佐代因为那件恶心的事，不想再来家里了。难怪。空气沉闷，一根根陌生女人的头发出现。不过，正雄并没有太在意，今天照常准备上班。

“啊，早上好”

〉这里的房东村田浩在附近的垃圾场[文]。他五十多岁，身穿绿色马球衫和灰[章]色休闲裤。 Masao 发出热烈的问候。

“早上好，你的房间怎么样？”

“没事。不过，我也听到了一些不好的传言，不过我什么都不在乎，所以一点问题都没有。”我看到了正男。正男说了奇怪的话我有点困惑。

“你听说了吗？好吧，那是很久以前[来]的事了。这是一个糟糕的故事，他还[自]是个小孩子。”

〉正雄想。毫不拖延地提出问题。

“嗯，那个女人是自杀的吧？”她被击沉遇难，她的母亲后来也被吊死。不管是什么原因，这都是一个悲伤的故事。”

〉正雄沉默了一会儿。这是我第一次听说一个年幼的孩子死了，与其说是害怕，不如说是孩子被杀的悲伤。

『早上说了这么多，实在不好意思，[i]有什么事请第一时间告诉我。』

‖宏轻轻鞠了一躬，离开了原地。正[a]雄能做的也只是点点头，什么也没说[m]。

〉〉〈〉*

〉下班回到家，我第一时间冲到卫生间洗去黏糊糊的汗水。

‖热水从花洒的小孔中喷出，重重地砸在正男的头和身上。一时间什么也没想，就继续洗澡。

（小孩子在这里被杀了？我连青春都[k]尝不到……可怜的东西）

‖热水一下子变成了冷水。正雄吓了一跳，不过感觉还好。张开嘴，往嘴里灌满水，一下子喝完。看来他是不自觉地这样做了，因为他的喉咙被热得发干了。

』 正男洗完身，用毛巾擦了擦全身。你面前有一面真人大小的镜子。无缘无故在它面前擦身子是他的习惯。也许他想确认一个既不健美也不肥胖的半成品。

（咦？）

‖视野里有什么东西一闪而过。好像[.]有什么东西越过了镜子。我努力照镜[c]子，但什么也没有。

（难道只是我的错觉？）

‖他又擦了擦身子，腰前弯，低着头，一边用毛巾擦着头发上的水珠。 ――我确实感觉到一股强烈的视线落在我的后脑勺上。

『正雄确信这不是自己的幻觉，但他还是故意继续擦着头。我还有视线。

‖我猛地抬起头，照了照镜子。虽然只是一瞬间，但我确认了。

一个长头发的女孩。我看不清他的脸，但我确定。不敢照镜子好像害羞它看起来像是卡在了范围内。

‖这也是正雄的恐惧，但他并没有表现出任何的恐惧。

（啊，你对我有兴趣吗？你好像害羞[n]了）

〉正雄在城市里捡到一只流浪猫，给[恐]了它一个深情的眼神，我和那个女孩[怖]子有同感我看了一会儿。它很可爱，[鬼]但我无能为力。

‖午夜。正雄做了一个梦。

‖画面清晰到梦境与现实混杂在一起，难以分辨。

‖随处可见的小公园。正男和镜中少[故]女正在那里荡秋千。

“玩的开心吗？”我一边荡秋千一边[事]问女孩。

“嗯！”

‖少女对正雄露出灿烂的笑容。

‖不知她有没有十岁左右。他有一头[文]长过肩的黑色长发。白色连衣裙搭配[章]红色凉鞋。他从头到尾一直盯着正雄[来]，不停地发笑。

“哥哥”

〉少女忽然开口。

“咦？怎么了？”

“你喜欢我吗？”

“是的，我喜欢你”

正男摸着少女的脑袋说道。

（至少，我希望你在梦中也能享受它[自]）

〈正雄的小脑袋来回晃动两三下就醒了。

当我慢慢看向自己的右手时，手指间夹着几根长长的毛发。

〉从那以后，我每天都做这个梦。

｀｀｀｀＊

｀增加了周六、周日和节假日，这是时隔一段时间的长假。

‖给小夜发一封电子邮件，邀请她到家喝酒。起初他不情愿，但还是勉强同意了。

‖门铃响了，推开前门，满头大汗的佐代站在门口，双手拎着购物袋。

“欢迎光临，不好意思，买东西的事[i]情交给我吧。”

〉正雄一脸歉意的打开门。

“真的，太过分了——”

〉从门口迈出一步，纱夜顿时有些无[a]语。

“怎么了？”

〉正雄从佐代手里接过购物袋，好奇[m]地看着。

“空气比之前重了好几倍。”

“原来如此，你多虑了，没事的。”[k]我看得出来。

“嗯，喝了一点都不介意，不厌其烦[.]去买东西了，总不能回家吧？”

”嗯……没错。

‖佐代在正男的劝说下，迈着沉重的[c]脚步往客厅走去。

一边喝着酒，一边看电影，看电视，[n]彼此开始被强大的睡意袭来。

“该睡觉了”

‖看看表，凌晨2:00。

“嗯，睡吧”

‖两人一决定明天打扫卫生，就赶紧[恐]换好睡衣，一下子倒在了床上。几分[怖]钟之内，他们就相拥而眠。

〉平常的公园。正雄和少女正在荡秋千。然后重复同样的对话。

“你喜欢我吗？”正雄做好了接受女孩会说的话的准备。

“嫁给我吧”

〉正雄想知道他是否做到了。根据答案，女孩会感到难过。但是，即使你让他觉得奇怪，事后的失望只会有增无减。正雄下定决心。

“对不起，兄弟，我不能结婚，请原[鬼]谅我。”

“为什么，为什么？”

‖女孩是快哭了。我下了秋千，抱住[故]了正雄，把脸埋在正雄的肚子里。

“对不起对不起，我随时陪你玩”，[事]抚摸着女孩的脑袋。

“不过没关系，我在你哥的心里。”[文]

说着，少女抬头。 ――满脸青紫。到我分不清哪个部分[章]是哪个的地步...它似乎已损坏。[来]

“怎么了？”

〉正雄努力装出一副不吃惊的样子。[自]

“我要是没有那个女人就好了”

‖少女嘴角的牙龈外露，话语从那里吐出，诡异地环环相扣。活泼的嘴巴里发出诡异的笑声。咳咳咳。连正男都害怕了，说话来阻止那笑声。

“你在说什么呢，哥哥，你永远是我的玩伴吗？”但笑声并没有停止。然后，他用突出的眼珠子瞪了正男一眼，道：“杀了那个女人。”然后他又发出奇怪的笑声。正男差点失去理智。

“住手！”站在她面前的是一脸苦恼的纱夜，她的手臂疯狂地摆动着。

〉当正男发现自己勒紧了纱代的脖子时，他赶紧松开了手。

〉纱代郎剧烈咳嗽起来。正雄一头雾水，不知道发生了什么事。

“我，我到底在干什么……”

‖纱夜终于冷静下来，张开了嘴。

“你突然控制了我，开始勒死我了”[i]

〉佐代眼眶泛红，红着脸努力解释。[a]

“哎呀，真傻……”

“我拼命反抗，一看你的脸……”

∀别说话了，拿休息。然后，停顿一下，再张开嘴。

“是个长头发的女孩。”

惊呆了。正雄不敢相信刚刚发生的一切，他只能盯着地板上的一个地方。

“所以这个房间很奇怪，我们搬家吧[m]。”

“啊，这样说不定比较好。”

‖正男摇头。我拿着它说道。

（不知是不是对妹子做了什么坏事）

『正雄说他莫名其妙的同情到头来惹是生非，抱歉来晚了

∀然后，莫名其妙地，正雄听到了“[k]我们永远在一起”的声音。我连忙起[.]身喊道：“真的很抱歉，我没有错，[c]请原谅我！”

“怎么了？”被她突如其来的动作弄得一头雾水的纱夜说道。但是正雄不听。

``永远在一起'' ``永远在一起'' ``永远在一起'' ``永远在一起'' ``永远在一起''

『只有正男听到了少女的声音反复。声。然后Masao道歉。

“头痛，痛

』 正男猛地一甩头。看起来很痛苦。

“你没事吧？我这就叫救护车！”纱夜说着拿出手机想拨，可是手在颤抖，拨不通。

“我要，我要！”

〉正男受不了疼痛，像钟摆一样左右[n]摆动。然后，起身离开卧室，不知不[恐]觉走到客厅和卫生间。

〉打开洗脸盆上的水龙头。正男用力往脸上泼水，照了照镜子。

无语。那张脸不是我的，是那个女孩的脸。而且皮肤像腐烂的炒鸡蛋一样乱糟糟的，牙龈都露出来了。他那双圆滚滚的眼睛直勾勾地盯着正雄。女孩正透过镜子微笑。

“我一直在你身边”

〉正雄尖叫着冲出前门。纱夜束手无[怖]策，只能目瞪口呆。

‖*

‖吸烟区。 Sayo 点燃她的极弱音，然后休息一下。

∀素不相识的丧服之人，纷纷前来，畅饮香烟。其中，两个女人的对话就算不喜欢也传到了纱夜的耳朵里。

“看起来像是某种自杀”

“咦，你跳下去了是吧？不过我听说你好像一点也不担心。”

“是啊。就算记得大学时的性格，你也不是那种会自杀的吧？”

“我也这么觉得”

“不过人这种生物，我不是很懂，所以不知道是不是出了什么事。”差不多同时，他把烟丢进烟灰缸里，转身离开了。纱夜面无表情地点了一根新烟。这是第四个。

电线错误。纱夜突然想起了一种寄生虫。

〉这种虫子寄生了一只蚂蚱什么的，成虫之后好像要回到河里，那个时候好像是要给妈妈引路。这是一种令人毛骨悚然的生物，可以给蚱蜢洗脑并操纵它们进入河流并跳入其中。 Sayo 认为这件事是一个电线错误。

或许是寄居在自来水中的少女精神它[鬼]通过他的嘴进入正雄的身体，对其进[故]行洗脑。而且，一定是引导他们到异[事]世界，与他们相处的动机。纱夜咂咂[文]嘴吐出一口烟。

‖掏出手机。当他推出 Twitter 时，他沮丧地粗暴地打出自己的句子[章]。

“我经常听说被打倒，但我从来没有[来]想过自己会被附身。”

抽完最后一根烟，纱夜迈着沉重的脚步走回了殡仪馆。 .

「あなたの部屋、以前住んでた人が自殺したらしいわよ」

　隣の部屋の奥さんがそう彼に言った[自]。

「ああ、そうなんですか……」

　だからなんだ、という雰囲気で暢気[i]に彼は答えた。

　彼はサラリーマンの田中雅夫、二十[a]八歳。数日前に越してきたばかりの[m]引越しホヤホヤの住人だ。彼は近所[k]の方々への挨拶の為、蕎麦を片手に[.]隣の部屋に訪問したのだが、少しの[c]会話でそこの奥さんが顰めた面で口[n]を開いた。それが、先ほどの以前の[恐]住人が自殺した、という知らせだっ[怖]た。だが、ここの物件の契約の際明[鬼]らかに家賃が安いことから何となく[故]察しはついていた雅夫だったので、[事]別段驚くことはない。しかも、彼は[文]そういった霊的なことに関しては何[章]の恐怖心を抱かない珍しいタイプな[来]ので、変に心配されたり、同情され[自]たりするとと気分を害し、余計なお[i]世話だ、と思うくらいだった。

「まあ、そのへんは気にしてないの[a]で」

　雅夫はきっぱりと言い放つと、一礼[m]をしてから自室へと戻って行った。[k]

　１LDKで破格の値段。雅夫みたい[.]に過去にどんな不幸があった部屋だ[c]としても全く気にしない人にとって[n]は最高の物件だろう。だが、近隣の[恐]住人の話では、「三十代後半の女性[怖]が首吊り自殺をした」ということら[鬼]しい。普通この事実――いや例えデ[故]マだろうとも知ってしまってはそこ[事]に住もうという気持ちにはならない[文]筈だ。因みに雅夫の前とその前の住[章]人二人とも一ヶ月以内に部屋を引き[来]払っているそうだ。どう考えても、[自]住んだら何か嫌なことが起こるとし[i]か思えない。これから過ごすにあた[a]って住めば都、になるのだろうか。[m]

　　　＊

　引っ越してから一ヶ月。

　雅夫はいつも通りに平和な日常を送[k]っていた。近隣の方々の心配を取っ[.]払うように、毎日元気に挨拶を交わ[c]し出社していた。

　病も気から、という言葉があるよう[n]に、不安を抱えながら暮らすのでは[恐]負の要因を招くことになる。だが、[怖]何も気にせずにいる雅夫の生活は何[鬼]も問題ないようだ。

　更に一ヵ月後。

　遠距離恋愛中の彼女が職場の転勤の[故]関係で、雅夫の住居の近くに引っ越[事]すことになった。電車で三十分程の[文]距離。当時の片道飛行機で一時間半[章]から比べたら、雲泥の差だ。

　彼女――中島紗代は引越しの片付け[来]を済ませてから雅夫の家にやって来[自]た。

「え、何かこの部屋空気重くない？[i]」

　玄関に入るや否や、紗代はそう口に[a]した。雅夫は自殺の噂について語っ[m]ていない。

　今は蒸し暑い夏場。常に窓を開け、[k]空気の換気をしているので、「空気[.]が重く」なる筈はない。

「そうか？　気のせいじゃないか？」

　またも雅夫の得意技の暢気さで返答[c]をする。

「いや、絶対この部屋おかしい」

　譲らない紗代。面倒なので、リビン[n]グに行くようにせっせと促す雅夫。[恐]

　黒い革張りのソファーに座らせると[怖]、雅夫はインスタントコーヒーを二[鬼]人分用意した。一口啜ると、紗代は[故]立ち上がり、「さあ、浮気チェック[事]」と言って、先ず風呂場へ行った。[文]

「してるわけないだろう」

　冗談でもむっとした雅夫は強めの口[章]調で言った。だが、紗代はとっくに[来]先へ行っていたので聞こえていない[自]。

「ちょっと！」

　風呂場からエコーがかかったような[i]怒鳴り声。びくっと反射的に肩を上[a]げて驚いた雅夫は駆け足で風呂場に[m]向った。

「何これ？」

　そう言って紗代は何かをつまんで雅[k]夫に突き出す。

「え？　何々？」

「だから、これ！」

　目を凝らす雅夫。――長い髪の毛。[.]明らかに女の髪だ。だが、家にあげ[c]た人は紗代だけだし、今日まで他に[n]誰もいない。慌てて雅夫は否定した[恐]。

「今日初めて人を家に入れたんだぞ[怖]。その相手が君だ。神に誓ってもい[鬼]い」

　言ってから、髪と神がつまらないシ[故]ャレみたいになっているのに気がつ[事]いたが、弁明する雰囲気ではないの[文]で雅夫は依然に真面目な表情で振舞[章]った。

「じゃあ、これはどう説明するのよ[来]」

　やはり言葉だけでは蟠りは解けない[自]。

「どうって言われてもなー……、前[i]住んでた人のじゃないのか？」

「何それ、もっとましな嘘つきなさ[a]いよ」

「だから、本当だって！　信じてくれよ」

　しばらく問答を繰り返した挙句、紗[m]代が折れて、雅夫の無実が決まる。[k]だが、一時的らしい。もし万が一不[.]審な点がまた見つかるようだったら[c]、紗代の怒りの鉄拳が炸裂する、と[n]いうことになった。雅夫は身に覚え[恐]のない髪の毛が出てきたので、何も[怖]していないのにも関わらず神経を研[鬼]ぎ澄まして警戒しなければならない[故]。紗代が動くたびに何か言われるの[事]ではないか、とびくびくしていた。[文]

「おい、どこ行くんだ？」

　急に紗代が立ち上がるので、慌てて[章]雅夫は口走る。

「どこって、コーヒーカップ下げる[来]だけよ」

　神経を張っているせいか、些細な行[自]動でも不安に思ってしまう。雅夫は[i]気まずそうに煙草に火をつけた。

　ふうー、と心を静めるようにゆっく[a]り上空に煙を吐く。

「きゃっ」

――激しく煙が口から噴射する。紗[m]代の悲鳴に驚き、急いで灰皿に煙草[k]をねじ込み、台所に向った。

「どうしたの？」

　紗代は身体を縮めて、一点を見詰め[.]ながら微かに震えている。そして、[c]何も言わずにゆっくりシンクの洗い[n]場を指差した。

「何？」

　不審に思いながら、洗い場を見る。[恐]そこには残飯受けが抜かれて置いて[怖]あるのだが、その下の方は黒いもの[鬼]がへばり付いていた。雅夫は暢気に[故]「海苔か？」と思い、目を細めるが[事]、どうやら違う。また、長い髪の毛[文]だった。しかも大量に。

「うわ、何これ？」といくら雅夫で[章]も驚きを隠せない。

「知らないわよ……気色悪いわ」

　雅夫は途端にあの噂を思い出す。「[来]以前の住人が自殺した」と。だが、[自]胸の内に留め、ぐっと口を噤んだ。[i]

　　　＊

　数日後。

　あの気色の悪い一件から、紗代は家[a]に来たがらなくなった。無理もない[m]。空気が重く、見覚えのない女の髪[k]の毛が次々出てくるのだから。だが[.]、雅夫はあまり気にせず、過ごして[c]おり、今日もいつものように元気よ[n]く出社しようとしていた。

「あ、おはようございます」

　近くのごみ捨て場にここの大家の村[恐]田寛がいた。五十代後半くらいで、[怖]緑のポロシャツと灰色のスラックス[鬼]を纏っていた。雅夫は活気溢れた挨[故]拶を送る。

「おはよう。どうだい、今の部屋は[事]問題ないかい？」と鴉よけのネット[文]をごみに被せながら言った。

「大丈夫ですよ。ただ、嫌な噂は聞[章]きましたが、何も気にしていないの[来]で全く問題ありませんよ」

　寛は一瞬動きを止め、じっと雅夫を[自]見た。雅夫は変なことでも言ったの[i]かと思い、少々困惑する。

「聞いたか。まあ、もう昔の話だ。[a]かわいそうな話だよ。まだ幼い子供[m]だったのにな」

　おや、と雅夫は思った。間髪を入れ[k]ずに質問する。

「え、女の人が自殺したんじゃ？」[.]

「まあそうだが、一家心中だよ。母[c]親とその娘がね。娘は母親に風呂場[n]で沈められて殺され、母親はその後[恐]首吊り。理由はどうであれ悲しい話[怖]だ」

　雅夫はしばらく黙り込んだ。幼い子[鬼]供が死んでいるという事実は初耳だ[故]ったし、恐怖というよりも子供が殺[事]された悲しさで言葉を失っている。[文]

「朝から重い話をして申し訳ない。[章]何かあったら直ぐ言ってください」[来]

　寛は軽く会釈すると、その場から立[自]ち去る。雅夫は何も言わずに肯くだ[i]けで精一杯だった。

　　　　＊

　会社から帰宅すると、粘ついた汗を[a]いち早く流したく、風呂場に急行す[m]る。

　熱い湯がシャワーの細かい穴から噴[k]き出て、雅夫の頭、身体を強く打つ[.]。しばらく何も考えずに、ただ湯を[c]浴び続けた。

（ここで幼い子が殺されたのか。青[n]春すら味わえずに……かわいそうに[恐]）

　湯が急に水に変わった。雅夫はびく[怖]っと驚いたが、それはそれで気持ち[鬼]よかった。口を開けて、水を口いっ[故]ぱいに含み、一気に飲み干す。暑さ[事]により喉がかわいていたので、無意[文]識にそうしてしまったらしい。

　一通り身体を洗い終わったので、雅[章]夫はタオルで全身を拭う。目の前に[来]は等身大の鏡がある。特に理由もな[自]くその前で身体を拭くのが彼の習慣[i]だ。多分引き締まっても、太っても[a]いない中途半端な肉体を確認したい[m]のだろう。

（あれ？）

　ちらっと視界に何かが映った。鏡を[k]何かが横切ったみたいだ。しっかり[.]と鏡を見てみたが、何もいない。

（気のせいか）

　再び身体を拭き、腰を前に屈め頭を[c]下げながら、髪の毛の水分をタオル[n]で拭き取る。――後頭部に間違いな[恐]く強い視線を感じる。

　雅夫は気のせいではないと確信した[怖]が、わざとそのまま頭を拭き続ける[鬼]。依然に視線はある。

　急にぱっと頭を上げて、鏡を見た。[故]一瞬であったがそれを確認する。

　長髪の女の子。顔ははっきり見えな[事]かったが、間違いない。恥ずかしが[文]るように鏡の映らない範囲に引っ込[章]んだようだ。

　これも雅夫の凄みだが、怖がる素振[来]りがまるでない。

（ああ、ぼくに興味があるのか。恥[自]ずかしがっているようだな）

　雅夫は野良猫を街中で見つけ、愛お[i]しい眼差しを送っている時と同じ感[a]情を一瞬見えた女の子にも抱いてい[m]た。かわいいけど、どうしようも出[k]来ない、と。

　その夜中。雅夫は夢を見た。

　映像がはっきりとしており、夢と現[.]実が入り乱れ分別がつかないくらい[c]だった。

　どこにでもある小さな公園。そこの[n]ブランコで雅夫と鏡映った女の子で[恐]遊んでいる。

「どうだい、楽しいかい？」とブラ[怖]ンコを揺らしながら、女の子に問い[鬼]かける。

「うん！」

　満面の笑みを雅夫に送る少女。

　歳は十歳くらいだろうか。黒髪の長[故]髪で肩よりしたまで伸びていた。白[事]いワンピースに赤いサンダル。終始[文]雅夫を見詰め、笑顔を送り続けてい[章]る。

「お兄さん」

　急に少女は言葉を発する。

「ん？　どうした？」

「私のこと好き？」

「うん、好きだよ」

　雅夫は少女の頭をゆっくり撫でなが[来]ら言った。

（せめて、夢の中だけでも楽しんで[自]もらいたい）

　二、三回小さな頭を往復したくらい[i]に雅夫は目を覚ました。

　徐に右手を見てみると、指の隙間に[a]長い髪の毛が数本くっついていた。[m]

　その夢はそれ以降毎日見るようにな[k]った。

　　　　＊

　土日と祝日が加わり、久しぶりの長[.]い連休になった。

　紗代に家で酒を飲もう、と誘いのメ[c]ールを送る。最初は嫌がっていたが[n]、しぶしぶ来ることに承知した。

　呼び鈴が鳴ったので、玄関を開ける[恐]と、両手に買い物袋を下げ、汗ばん[怖]だ紗代が立っていた。

「いらっしゃい。悪いね買い物任せ[鬼]ちゃって」

　申し訳なさそうに雅夫は扉を開ける[故]。

「ほんとよー、もうくたく――」

　一歩玄関から進み、紗代は急に言葉[事]に詰まる。

「どうした？」

　買い物袋を紗代の手から受け取り、[文]不思議そうに眺めながら雅夫は言っ[章]た。

「なんか、前より数倍空気が重いよ[来]」

「でたそれ。気にしすぎなんだよ。[自]全然大丈夫だって」

　一笑しながら雅夫は言って、紗代の[i]顔みると、真顔でとても冗談が通じ[a]る雰囲気ではないことが見て取れる[m]。

「まあまあ、酒飲んだら全然気にし[k]なくなるって。折角買い物までして[.]くれて来たのに帰るわけにいかない[c]だろう？」

「うん……そうね」

　雅夫の説得に応じて、紗代は重い足[n]取りでリビングまで歩いて行った。[恐]

　酒を浴びるように飲み、映画を観て[怖]、TVを見ているうちに互いに強力[鬼]な睡魔に襲われ始めた。

「そろそろ寝るか」

　時計見ると、夜中の二時だった。

「そうね、寝よう寝よう」

　二人は片付けは明日にしようと決め[故]た途端に、テキパキ寝間着に着替え[事]て一斉にベッドに倒れこむ。ものの[文]数分で互いに眠りに就いた。

　いつもの公園。雅夫と少女はブラン[章]コで遊んでいた。そして、また同じ[来]会話が繰り返される。

「私のこと好き？」

「うん、好きだよ」

「じゃあ」

　いつもと違う展開。雅夫は少女がな[自]んて言うのだろう、と少し身構える[i]。

「私と結婚して」

　そうきたか、と雅夫は思う。返事に[a]よっては少女を悲しませてしまうこ[m]とになる。だが、変に気を持たせて[k]もその後の失望が大きくなるだけだ[.]。雅夫は意を決する。

「ごめんな。兄ちゃん結婚出来ない[c]んだ。ゆるしておくれ」

「なんで、なんで？」

　泣き出しそうになる少女。ブランコ[n]から降りて、雅夫に抱きつき、雅夫[恐]の腹に顔を埋める。

「ごめんな。ごめんな。でもいつで[怖]も遊んであげるよ」と言って少女の[鬼]頭を撫でる。

「でも大丈夫。お兄さんの中に私が[故]いるから」

　そう言って少女は顔上げた。――顔[事]全部が爛れていた。部位の判別がつ[文]かない程に……。どうやら腐敗して[章]いるようだ。

「ど、どうしたの」

　雅夫はなるだけ驚かないように努め[来]て言った。

「あの女がいなければいいんだ」　

　少女の口元は歯茎全体が顕になり、[自]そこから言葉が発せられ、奇妙に連[i]動している。生々しい口元から不気[a]味に笑い声が放たれる。きゃははは[m]は、と。さすがの雅夫も怖がり、そ[k]の笑い声を遮るように喋る。

「何を言っているの、お兄さんいつ[.]でも遊び相手になるよ？」

　興奮している少女を宥めようと、必[c]死に優しい口調で問いかける。だが[n]、笑い声は止まない。そして、飛び[恐]出た眼球をぎょろっと雅夫に照準を[怖]合わせて、「あの女殺せばいいんだ[鬼]」と言った。そして、また奇妙な笑[故]い声を上げる。雅夫は頭が狂いそう[事]になった。

「やめてっ！」

　紗代の悲鳴にはっと我に返る。目の[文]前には苦悶の表情を浮かべる紗代が[章]腕を振り乱し暴れていた。

　雅夫は自分が紗代の首を締めている[来]ことに気付くと、慌てて手を離した[自]。

　激しく咳き込む紗代。何が何だか分[i]からず、雅夫は混乱していた。

「ぼ、ぼくは一体な、何を……」

　ようやく落ち着いた紗代が口を開い[a]た。

「急にあなた私に馬乗りになって、[m]首を絞め始めたのよ」

　涙目、まだ赤い顔を歪めて紗代が懸[k]命に説明をする。

「そ、そんな馬鹿な……」

「私は必死に抵抗したわ。で、あな[.]たの顔を見てみると……」

　そこで喋るの止め、一区切りつける[c]。そして、間を空けてからまた口を[n]開く。

「長い髪の毛の女の子だったのよ」[恐]

　茫然自失。雅夫は今起こった出来事[怖]が信じられず、ただ床の一点を見詰[鬼]めることしか出来ないでいる。

「だから、この部屋おかしいんだっ[故]て。引っ越しましょうよ」

「ああ、そうした方がいいかもしれ[事]ない」

　雅夫は頭を抱えながら言った。

（少女には逆に悪いことをしてしま[文]ったのかな）

　変に同情することが、面倒を招く形[章]になってしまったことを雅夫は遅れ[来]て悔やむ。

　すると、「いつも一緒よ」と、どこ[自]からともなく雅夫の耳に届く。慌て[i]て立ち上がり、「ほんとすまなかっ[a]た。悪気はなかったんだゆるしてく[m]れ！」と怒鳴るように声を発した。[k]

「ど、どうしたのよ？」と急な行動[.]に困惑している紗代が言った。だが[c]、雅夫は聞いていない。

「いつも一緒よ」「いつも一緒よ」[n]「いつも一緒よ」「いつも一緒よ」[恐]「いつも一緒よ」

　雅夫の耳にだけ、繰り返し少女の声[怖]が響く。その度雅夫は謝罪する。

「頭がい、痛い」

　突然雅夫は頭を抱えのた打ち回る。[鬼]相当な激痛のようだ。

「大丈夫？　今救急車呼ぶから！」と紗代は携帯[故]電話を取り出し、ダイヤルを押そう[事]とするが、手が震えて番号が押せな[文]い。

「いたい、いたい！」

　雅夫は痛みに耐えられず、振り子の[章]ように左右に揺れて苦しむ。そして[来]、立ち上がると寝室を出て、リビン[自]グ、風呂場へと無意識に歩んで行っ[i]た。

　洗面台で蛇口を捻る。雅夫は水を勢[a]いよく顔に何度も浴びせ、鏡を見る[m]。

　絶句。顔が自分の物ではなく、あの[k]少女の顔だった。しかも腐敗したス[.]クランブルエッグのようにぐちゃぐ[c]ちゃなった皮膚と全て表へ出ている[n]歯茎。ぎょろっとした眼球が雅夫を[恐]直視している。その少女は鏡越しに[怖]笑みを送っていた。

「いつも一緒よ」

　雅夫は絶叫して、そのまま玄関から[鬼]表へ飛び出て駆けて行く。紗代はな[故]す術なく、ただ呆然としていること[事]しか出来なかった。

　　　＊

　喫煙所。紗代はピアニッシモに火を[文]つけ、一服していた。

　喪服姿の知らない人々が次々とやっ[章]て来ては、煙草を堪能している。そ[来]の中の二人の女性の会話が嫌でも紗[自]代の耳に届く。

「何か自殺みたいね」

「ねえ、飛び降りでしょう？　でも、そんな悩んでいるような様子[i]は全くなかったって聞いているけど[a]」

「そうそう。大学の時の性格を思い[m]出しても、とてもじゃないけど自殺[k]するようなタイプじゃないわよね？[.]」

「私もそう思う」

「でも、人間なんてよく分からない[c]生き物なんだから、何があったって[n]不思議じゃないのかしら」

「うーんそうね。ああ怖い怖い」

　二人の女性は同じ頃合いで煙草を灰[恐]皿に捨てるとその場から去った。紗[怖]代は表情一つ変えずにまた新しい煙[鬼]草に火をつける。これで四本目だ。[故]

　ハリガネムシ。急に紗代は寄生虫の[事]一種を思い出す。

　この虫はバッタかなんかに寄生して[文]、成虫になると川に戻りたいらしく[章]、その時期になると母体を川に誘導[来]するみたいだ。洗脳して、バッタを[自]川まで身体を操り、飛び込ませる、[i]という何とも気味の悪い生き物だ。[a]まさにこの事件はハリガネムシだ、[m]と紗代は思う。

　多分水道水に宿った少女の霊が雅夫[k]の口を通して彼の体内に住み着き、[.]彼を洗脳したのだ。そして、あの世[c]に誘導して、二人で仲良くしよう、[n]という魂胆だったのであろう。紗代[恐]は舌打ちをして、煙を吐き出した。[怖]

　携帯電話を取り出す。ツイッターを[鬼]立ち上げると、苛立った様子で文章[故]を荒々しく打ち込んだ。

『寝取られるとはよく聞くが、まさ[事]か憑かれ取られるとはね』

紗代は最後の一服を終えると、重い足取りで葬儀場に戻って行った。