作者:m
原文:【あの部屋】
私が病棟に勤めていた時のちょっと不思議な話です。
少し長くなってしまいますが、どう[文]ぞお付き合いください。
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一つの病棟に40床ほどある内科病[章]棟で働いていました。
内科病棟ですので、終末期の患者さ[来]んも多く、患者さんの最期に立ち会[自]うことも多くありました。
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大抵最期が近い患者さんは個室に移[i]ります。
個室の中でも、私たち看護師の中で[a]
【あの部屋】
と呼ばれている個室が存在していま[m]した。
(それ以外の病室は基本、〇号室と[k]いうように病室番号で呼んでいまし[.]た)
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【あの部屋】に入った患者さんの死[c]亡率が他の個室に比べて異様に高く[n]、
また【あの部屋】で患者さんがなく[恐]なると、2-3日のうちに、看護師[怖]や医師が想定していたよりも早く亡[鬼]くなってしまう
(【あの部屋】の患者さんに連れて[故]いかれてしまう)
患者さんがいることも多く、なんと[事]なく気味が悪い部屋でした。
一時期、霊感のある看護助手さんが[文]うちの病棟で働いていたのですが、[章]
その方も「あの部屋はすごく嫌な感[来]じがする」と何かを感じていたよう[自]でした。
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看護師になりたての頃は夜の病棟に[i]怯えていましたが、何年もすれば、[a]
「誰もいない部屋からのナースコー[m]ル」
なんてものは意外と多く、機械の不[k]具合だろうといつの間にか夜勤にも[.]すっかり慣れていました。
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そんなある日、終末期の患者さんが[c]部屋移動で【あの部屋】に移動しま[n]した。
その患者さんが【あの部屋】に移動[恐]してから数日間、
その部屋を訪れた受け持ち看護師達[怖]が、
「病室でお線香のにおいがする」
と言うのです。
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人がなくなる直前の何とも言えない[鬼]ようなにおいは確かにあります。
私も臨床で何度か経験しました。
ただそれとは違うらしく「お線香の[故]におい」だそうです。
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また何か言ってるなあと思いながら[事]、私が受け持った日勤のある日、
ペアの看護師と清拭(患者さんの身[文]体をきれいに拭くこと)をしていた[章]ときに
「ポンポンポンポン…」
と木魚のような音が聞こえ始めまし[来]た。
ペアの看護師と「なんの音?」と話[自]していると
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お線香の香りがふわ~っと部屋の中[i]に漂いました。
「あ。お線香…。」
このにおいのことか。
みんなが話していたことを瞬時に理[a]解しました。
ただ、そのお線香のにおいはずっと[m]しているわけではなく、ふわ~っと[k]漂ったあと消えてしまいました。
でもしっかりとお線香のにおいだと[.]感じました。
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私たちはそのまま清拭を終え、寝た[c]きりになっている患者さんの体位を[n]整えてから部屋を出て、
「本当にお線香のにおいしましたね[恐]…」
「した、結構しっかり。しかも木魚[怖]みたいなポンポンって音もきこえた[鬼]よね?」
「聞こえました…。もうそろそろな[故]んですかね」
「尿量も少なくなってきてるしね。[事]まだ大丈夫だと思うけど」
などと会話をし、その日は何もなく[文]日勤業務を終えました。
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翌日、私は夜勤でしたので、お昼く[章]らいまで寝て午後に出勤しました。[来]
【あの部屋】の患者さんは受け持ち[自]ではありませんでした。
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夜勤看護師は消灯後、最低でも2時[i]間おきに病棟をラウンドし、
自分の受け持ち患者さんの様子を見[a]て回ります。
ちゃんと眠れているか、機械の設定[m]は合っているか、
点滴やデバイス類が絡まったりして[k]いないか、
点滴は時間通りに減っているか、失[.]禁していないか…などなど。
一通り自分の受け持ち患者を確認し[c]、ナースステーションに戻る途中、[n]
ふと【あの部屋】の中に目がいきま[恐]した。
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【あの部屋】は個室の中でも広めの[怖]個室で、病室のドアは開けたままに[鬼]していましたが、
廊下からは、ベッドに横になってい[故]る患者さんの足元しか見えないよう[事]な部屋のつくりでした。
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何となく、【あの部屋】の中に懐中[文]電灯を向けたとき、
部屋の隅、患者さんの足元側に人が[章]いるような気がしました。
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ただその時は本当に何となく懐中電[来]灯をむけただけで、
【あの部屋】の中を懐中電灯で照ら[自]した時間は一瞬でした。
【あの部屋】の患者さんは受け持ち[i]ではなかったですし、直前に先輩が[a]ラウンドしていたため、見るつもり[m]もなかったんです。
ただ、人がいた気配がした…。
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認知症の患者さんや、夜間せん妄の[k]患者さんが、
自分の部屋と間違えて、ほかの患者[.]さんの部屋に入ってしまう
なんてこともなくはない。
気のせいだとは思いましたが、もう[c]一度部屋の中に懐中電灯を向けまし[n]た。
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今度はしっかりと。
いたんです。女の人が。
部屋の隅に立っていました。
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なぜ女性だと分かったのかは自分で[恐]もわかりませんが、女性でした。
髪の毛が長かったからかと言われる[怖]と、そうでもない気もします。
はっきりと見た目はわかりませんで[鬼]したが、
それは『人』で『女性』であるとわ[故]かりました。
それと同時に、この世の者ではないこともはっきりと感じました。
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そういったものを見たのは生まれて[事]初めてで、ものすごい寒気がしまし[文]た。
すぐにナースステーションにもどり[章]ましたが、なぜかその女性のことは[来]誰にも話す気にはなれませんでした[自]。
受け持ちの先輩には見えていないの[i]か、あの女性は誰なのか…
考えれば考えるほど、さきほど見た[a]女性の姿が脳裏に浮かんできてしま[m]い、冷や汗が止まらず、
できるだけ考えないようにと、ひた[k]すら記録やサマリーを入力していま[.]した。
いつもは大変だと感じる夜中のせん[c]妄患者さんも、その時だけはありが[n]たかったです。
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その後も2時間おきにラウンドをし[恐]ましたが、絶対に【あの部屋】の中[怖]は見ないように病棟を見回りました[鬼]。
病院で働き始め、「怖いこと」には[故]慣れたつもりでしたが
全くそのようなことはなく…夜勤中[事]ずっと怯えていました。
早く朝になれ、早く朝になれ。そう[文]願うばかりです。
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夜勤は定時に終わり、その日は速や[章]かに帰宅しました。
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1日休みを挟んで日勤で出勤。
朝病棟マップをみると【あの部屋】[来]が空床になっていました。
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どうやらあの日、夜勤明けから日勤[自]に引き継いですぐ、状態が悪化して[i]お亡くなりになったとのことでした[a]。
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その翌日も日勤勤務でしたが、その[m]日は慌ただしい1日でした。
【あの部屋】の斜め前に位置する4[k]人床に入院していた患者さんが、急[.]変でICU(集中治療室)へ移動に[c]なったためです。
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「またつづいたね」
「連れていかれなきゃいいけど」
そんな会話がステーション内で聞こ[n]えます。
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その日は1週間に1回のシーツ交換[恐]の日でした。
うちの病棟では、寝たきりの患者さ[怖]ん以外は業者さんがシーツ交換をし[鬼]てくれます。
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業者さんがナースステーションにき[故]て
業者「あの、すみません。〇号室の[事]4ベッドのマットレスの下からこの[文]タオルがでてきて…」
私「え?マットレスの下から??」[章]
業者「4ベッドの患者さんのもので[来]いいんでしょうか?患者さんいらっ[自]しゃらないので確認できなくて」
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なぜかマットレスの下からタオルが[i]出てきた「〇号室の4ベッド」とい[a]うのは、午前中に急変でICUへお[m]りた患者さんの使用していたベッド[k]でした。
白い生地に黒の縦ストライプ、黄色[.]い縁の黒字で野球球団の名前がプリ[c]ントされているフェイスタオル。
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看護師B「え・・・」
「それ、【あの部屋】で亡くなった[n]患者さんのタオルですよ」
看護師C「あ、ほんとだ。これ【あ[恐]の部屋】の人のですよ!阪〇の大フ[怖]ァンでしたし、このタオル持ってま[鬼]したよ。たしか端っこに名前書いて[故]あった気がしますけど」
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タオルの端を確認する。小さく名前[事]が書いてあった。
確かに【あの部屋】で亡くなった患[文]者さんの名前が。
私「とりあえずタオルはお預かりし[章]ます。ありがとうございます。」
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なぜ【あの部屋】の患者さんが生前[来]使用していたタオルが、今日急変し[自]た患者さんのマットレスの下から出[i]てきたのか…
看護師C「えー、やっぱり連れてい[a]こうとしたのかな」
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いや、連れていこうとしているのな[m]らば、【あの部屋】に入院していた[k]患者さんではなく、あの女性の霊だ[.]…。
私はそう感じた。今までもきっとそ[c]うだったんだ。
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タオルはご家族に連絡し、取りに来[n]ていただくことになりました。
ただ娘さんも、このタオルは確かに[恐]持ち帰ったはずなのにと不思議そう[怖]にしていました。
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急変した患者さんは無事でした。
その数年後私は転職し、その病院を[鬼]離れました。
今での【あの部屋】にあの女性の霊はいるのでしょうか…
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